書きかけ断片

「今日、ホワイトデー、だよね」
「そうだね」
「今夜、くるの?」
 普段のラスクからは想像も出来ないほど、もじもじしている。心なしか、顔も赤く見える。決心することだけで、精一杯だったのだろう。とてもではないが、購買部で妄想を垂れ流していた彼と同一人物とは、到底思えない。もっとも、ユリとしては、ガッツポーズを取ってしまいたくなるラスクの言葉ではあったが、平静を装って聞き返すことで答えた。
「って聴くってことはさ、『来て欲しい』ってこと?」
「ぼ、僕が泊まりに行く方が変でしょ?」
「そうでもないかもよ? なんなら、迎えに行ってあげようか?」
 真っ赤になりながら、ラスクは、頭を振ることで答えた。
――かわいい。どうやって、いじめようかな。今夜。
 借りてきた猫よりもおとなしく、初々しいラスクの態度に、ユリは、独占欲が駆り立てられるのを感じていた。
――私だって、ラスクにしか見せてないものあるし、ラスクが私だけに見せてくれるものがあってもいいよね。


 ノック三回。少し間をおいて、また三回。少し間をおいて、また三回。手が込んでいるせいで、却って、誰が何処に来ているのか、あっさり判ってしまっているように、ユリは思った。こんな気の長いことを、他の生徒たちがしているとは到底思えない。
「開いてるのに……」
 恨みがましいラスクの顔を見ると、なんとなく申し訳ないような気もするが、
「居るかどうかだけは確認しとかないとね」
 と答えて、ユリは遠慮することなくラスクの部屋に転がり込んだ。いつものように、担いでいた鞄を下ろすと、勝手知ったる他人の部屋との様子で、カーテンで窓を隠すと、部屋の主の性別など、お構いなしに制服から私服に着替えようとする。
「恥じらいとかさ、どっかに置き忘れてる?」
 毎度毎度の彼女の行動に、目のやり場を無くしたラスクが抗議の声を上げるが、意に合わずと言いたげな様子で、着替えを中断してラスクに睨みをきかせた。
「なに、私のサービスが気に入らない? そう滅多に見られるもんじゃないんだぞ。見目麗しい乙女の生着替え」
「ユリさ……じゃなくて。ユリが来たら、真っ先にするの、それじゃん」
 呼び捨てにできなかったところで、ユリの気配を察したからか、ラスクはとっさに言い直した。
「着替えることをどうこう言うつもりもないけど……その……スカートを脱いでからジャージを着るの、やめない?」
「おやぁ? ラスクは、こう言うのお望みじゃなかったの? 紛い物じゃなくて、本物だよ?」
 スカートを脱いだ格好のユリが、ラスクを挑発する(いや、からかうと言うべきか)様に闊歩してみせるが、当の本人は、必死になって視線を逸らしている。
「そ、それとこれとは、ベ、別物でしょ! 普通?」
 極力、ユリとは目を併せないようにしているのか、必死になってきょろきょろするラスクの様子が、ユリにとっては可愛くて仕方がなかった。
「二人きりだったら、好きなだけ見せてあげるって言ってるのに」
「は、早くはいてよ!」
「ま、いいか。どっちにしても、裸を見せあいっこした仲だもんねー」
 言ったのはユリ。言われたのはラスク。真っ赤になったのは……言うまでもラスク。とてもではないが、購買部で妄想を垂れ流しにしていたラスクと、同一人物には見えない。
 フリーズしたかのように、赤面して動かなくなったラスクに、ユリのいたずら心が刺激された。
「セパレートの水着だったらどうする?」
「なぁんだ、水着だったら見せてもへい」「う・そ」
 硬直が解けた瞬間に、耳元に囁くようにとどめの一言。治まったかと思った赤みが、あっという間に、ラスクの表情を染め上げる。あまりの初々しさに、自分の格好も省みずに、ユリはラスクを抱きしめていた。
「かわいいー」

ザ・しりきれトンボ(笑)。断片って言うには、少々分量が多いかも知れないけどさ。
この後、ちょこっと書いて、この前に、ラスク側の動機を書き足して、形にするってところかねぇ。
本当は、ラスクと聞きに言った誰かとの問答集にして、俺の持ってるイメージをはっきりさせる、ってのもあったんだけど……暇つぶしに、その部分考えてたら、いざまとめようとした段で、ほとんど消し飛んでた……(´・ω・`)