噂話にのせられて、昔話でもしてみようか。

DOS時代のファイラー“FD”作者、出射厚氏逝去の報 | スラド

個人的には、ウソであって欲しいんだけどね。
どうして、そう思うのか、って思われるかも知れないから、ちと昔話でも。

事の起こりは、大学時代……

今から、15年ほど前の話。
ビジュアルインターフェイスとも言えるGUIは、Macの独壇場*1と言っても過言ではない状況だった。
ただ、当時のPC市場を支配していたNEC-PC9801シリーズは、グラフィックの描画能力が強力とは言いにくく*2CUI、いや、CLIが主体のOS、DOSを使うのが当たり前の時代でもあった。
が、CLIの使いにくさは、コマンドラインを使うことが少ない今の人々でも、理解できると思う。難解な呪文を駆使して、望み通りの結果を得るのは、まさに魔法使いのようにも見えた時代だ。その敷居を一気に引き下げるツールが登場したのだ。
それが、彼の御仁が著したFDと言うツールだ。
このツールは、あらゆることを恐ろしい程に、使いやすくした。
テキストの閲覧・編集、画像閲覧、動画再生、音源再生など、確かに、自分である程度設定ファイルなどを弄る必要は有ったけど、その手間にしたところで、大したことではなく、今のお仕着せ環境設定を、自分好みに修正していくことの方が、手間に感じるほどだ。

とはいうものの、俺自身は、このツールを自分で見つけたわけではない。大学時代に入ったサークルで、DOSを利用できるようになるための基本を学ぶ際に、このツールの入ったディスク*3を渡された。

俺自身は、その後、FDの一枚窓に操作の限界*4を感じ、93年頃に、動作を二枚窓に変更することのできるWDに移行した。

だからといって、俺には、FDやその作者を貶めるつもりは無い。
というか、この人が居なければ、日本のMS-DOS環境は発展しなかった、と思っている。なんせ、90年代初頭に始まった、オンラインソフト紹介書籍の類いでは、ファイルユーティリティとしてはFDが、アーカイバとしてはLhaが、画像閲覧ソフトとしてはmagローダーが、と言うのが常識のように採り上げられていたからだ。(あと、テキストバイナリコンバータとしてIshも採り上げられていた。)まぁ、アーカイバがLhaなのは、当時の流通ソフトの多くが、*.lzh形式であったのが大きいのだが、FDに関しては、その扱いが別格だったように感じる。
その影響力の大きさは、移植された処理系*5や「DOS5のビジュアルシェル*6なんかより、“FD”の方が使いやすいじゃん」といった笑い話のような、妙に現実味のある話が方々で聞こえてきたことからも判るかも知れない。

窓とアイコンは、利用者にとって文字を越える存在か否か?

さて、翻って……今は、と言えば、おそらくファイル操作には、エクスプローラーを使い、と言ったところだろう。
でも、俺は、FDによって完成されたとも言える、テキスト主体のファイル操作ツールから離れることができずにいる。
確かに、Windowsに移行しているので、FDそのままというわけにはいかない。それに、普段使っているファイルシステムも、FATではなくなっているので、FDが動くかどうか、と言うことになると致命的と言わざるを得ない。が、必要は発明の母とは良く言ったもので、Windows用にも、その手のツールは結構あるのだ。
その中でも、俺は、クセが比較的FDに似ているafxを使っている。
テキストビュワーは、パソコン通信のログを見ることが増えたころから、FD内蔵からmielに移行し、Windowsへの移行後は、Abrowserに移行している。

未だに過去を引きずっているのか、と言われればそれまでの話なのだが、長く使われるツール、長く求められるツールというのは、それなりの完成度を持っているものなのだ。
“温故知新”という言葉もある。ファイル整理が面倒くさいと思っている向きが有れば、この際、縁があったと思って、いろいろ調べてみてはどうだろう?

ソコには、「古いから劣っている、新しいから優れている」が常に真ではないことの実証があると、俺は思う。

「だから」、こそ?

噂だと思うから、俺は冥福は祈りません。無礼な奴だとか、人でなしと思われてもね。

*1:国産PCでも、X68000のSX-Window、FM-TOWNSのTOWNS-OSなど無いわけではなかった

*2:拡張されてようやく640×400pixel、4bitパレット、選択可能色4096色と言った時代だ

*3:5.25インチ2HD・NEC98x1フォーマットのフロッピーディスクなので、容量的には1.25MByte。昔は、この容量に、マウスドライバ、メモリマネージャ、今で言う日本語IME、その他諸々のツール類も叩き込むことができた

*4:頭が悪いので、視覚的にファイル移動できないと安全性が下がるのだ

*5:ハード的にまったく異質な旧FM-V版TOWNS版や、システム的にまったく異なるUnix系列などにも移植された

*6:これは、単に名前を忘れたからだ。俺もDOS5を使っていた期間は有るが、名前を思い出せないぐらい印象に残っていない