初日のRunner。#1

ネタバレは、ほとんど無いと思うけど……
一応、回避推奨って事にしとく。こっちもね。
ネタにされがちだろう、B3広間を越えた後・糸買い忘れたコンボに襲われた、在る或るパーティのお話。

「それじゃ、そろそろ一回、街に戻りましょう」
 パラディンとしての自覚も芽生えてきたのか、皆の様子を気遣ってティターニアが方針を帰還に改めようとすると、
「結構、素材も貯まってきた頃だし、いい加減戻るべきだよな」
 まっ先にアリエルが、承諾の言葉を繋げる。その言葉を待っていたのだろう。
「そろそろ種切れだったから」
 と、安堵の表情を浮かべてラスクが同調した。


「今回は幾らぐらいになるかな?」
 戦利品とも言える素材の山を前にして、一足早く街に戻ったつもりになっているユリが、そろばんを弾いている傍らで、心なしか焦ったような表情で、アトリウスは、カバンの中を引っかき回していた。
 その様子に気付いたのか、ティターニアが、気遣うようにアトリウスに声をかける。
「どうかしたんですか? アトリウスさん」
 ティターニアの問いかけ出、諦めがついたのか、カバンの中を引っかき回していた手を止めて、アトリウスは溜息をついた。
「『糸』のストックが、ない」

 正式には、『アリアドネの糸』として知られ、『糸』との通称で呼ばれる、このアイテムは、一言で言えば、今、彼らが探索している『世界樹の迷宮』から、安全に地上まで戻るために存在しているアイテムだ。
 これは、深い階層まで探索を進めた冒険者たちの経験や知識を、新参の冒険者たちにも伝承していくために、施政院が考案したとされている。そんな背景があるからなのか、施政院から課せられる最初の任務をクリアしなければ、販売されることはない――もっとも、その最初の任務をクリアしなければ、迷宮の探索を進めることも許されないのだが――。
 とは言え、ようやくB3と呼ばれる階層まで探索の手を拡げたRunnersにとって、それほど重要度の高いアイテムとも言いにくいアイテムでもある。
 が、それでも、冒険者たちにしてみれば、命綱と呼び換えることのできるアイテムであることに変わりはない。

 つまり、アトリウスが告げたことは、『命綱がきれた』事を意味していた。

 反射的に、声を上げそうになったユリの口を、ラスクの手が塞ぐ。エリアルが、呆然と、アトリウスに問いかける。
「じょ、冗談だろ?」
 が、アトリウスは、肩をすくめて頭を振る。どれだけ念を押されようとも、所持していない現実に変わりはないからだ。
 重くなった空気を振り払おうとしてなのか、ティターニアが静かではあるが、確たる言葉を口にする。
「戻りましょ」
「あの『大広間』、どうするんだよ?」
「なんとかするしかないでしょ?」
 愕然とするエリアルに、ティターニアは、静かにではあるが、キッパリと答えていた。
「なんとか、って……」
 具体的な方策が思いつかないのか、呆然と彼女の言葉を繰り返したエリアルを無視するように、彼女は、ラスクに声をかけ、彼ら後衛の二人が描いている地図をのぞき込んでいた。
「地図に問題はないわけよね?」
「うん」
 ティターニアの確認に、ラスクもおずおずと答えると、
「だいたい、このあたりか……」
 と呟きながら、彼女は茂みを蹴りはじめた。
 突然の彼女の行動に、追いつめられた状況に絶望して、やけをおこしはじめたのか、とエリアルは、勘違いしてしまう。だからこそ、こんな言葉をかけてしまっていた。
「頼むぜ、リーダーさんよ…… 状況がヤバすぎて、頭がどうかしたんじゃないだろうな?」
「その心配なら無用。私なら至って普通だから」
「だからって、なんで、そんな事やってんだよ?」
「この茂みの向こう。二人が作った地図に記録しておいた、ちょっとした隙間のあった場所なのよ」
 静かではあるが、自信に満ちた言葉でティターニアがアリエルの言葉に応えると、それに感化されたのか確認するようにユリがラスクに問いかける。
「そうなの?」
「一応、この茂みの向こうは、『第三の広間』なんだけど」
「広間って言っても、あそこで、『奴』の脇を駆け抜けるのは、気分の良いもんじゃねえぞ?」
「だからって、このままうろうろしてても、肥やしになるだけじゃないかしら?」
 ラスクの言葉に、エリアルも、イヤそうに反問するのだが、そんな彼らのやりとりに、ティターニアが参加したところで、茂みの中に、獣道らしきモノができあがる。
「動かないことには、生きて帰ることもおぼつかないんだから、茂みの向こうに行ってみない?」
 と、自分が作った獣道を指さして、ティターニアは皆に動くことを提案していた。

いやぁ、実際に書いてみたらさ、結構な分量になっちゃって。
……あの程度の状況で、続き物かよ、って気分になってきた(自嘲)。
ってワケで、ここで一旦続く。