公約通り、進めるよ?

と言うわけで、今週は休まずいくよ。ストックは、来週の火曜日の分まであるから。
……終わりがやっと見えてきた。
さてと……
大まかなおさらいは、00年02月01日に。話の頭自体は、今年の5月1日。
今日から、最後の幕間の始まり。では、本文。

幕間#4・老師の導き#1

<-『ラスク・Expert#6』

「私の部屋に来るってことだよね?」
「うん」
 ユリの確認に、ラスクは頷いた。
「けどさ……」
「何?」
「いつまで、こうしてなきゃいけないの?」
「部屋につくまで」
 ラスクが一泊の準備を終えて、部屋に鍵をかけるのを待って、ユリが再び、「お姫様だっこ」の体勢に抱え上げたのだ。
――ユリは、恥ずかしくないのかな……? 僕にとって、こんな恥ずかしいこと無いのに。それ以前に……
「疲れない?」
「ラスクがしがみついてくれたら、楽になるんだけどね」
「できないの判ってて言ってない?」
「言ってる」
 まるでトーナメントで会心の攻撃を繰り出せた時のような表情をユリが覗かせる。
「いじわる……」
 真っ赤になりながら、口を尖らせて、ラスクはつぶやくのだが、その反応が、ユリの行動の呼び水になっていることは、微塵も思っていなかった。
――別に、しがみついてくれなくても、ラスクぐらいなら抱いたまま帰れるんだけどさ。
 とユリは思っているのだが、口に出さないことにした。


 結局、自分の部屋まで、ラスクを抱きかかえたまま、迎え入れると、ドアにもたれ掛かるようにユリが言葉をかける。
「昨日の話、もう一度聞かせてくれる? ロマノフ先生の話とかさ」
「あれ?」
 ラスクとしては、昨日の質問の回答を迫られると思っていただけに、虚をつかれる格好になった。
「うん」
「あれはね……」

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 初めて、そこに赴いたのは、入学式の前後のことだった。
 その時のラスクの出で立ちを簡単に表現すると、裄丈に届かず手が出ないために、出来の悪い幽霊のような格好、と言ったところだろう。言うまでもないが、ラスク自身も、袖から手が出ていない、と言うのは不便きわまりなかったのだが、袖口に織り込まれた白線が、アカデミーの一員となったことを強調しているようで、誇らしく感じていたのだ。
 とは言え、そんなラスクの幼い背伸び心をみて、芳しくないと感じた者もいた。紫紺のローブに身を包んだ、老魔術師が、彼を呼び止めたのだ。
「これ、まちなさい」
「え?」
「身の丈に合ってないモノを着ている、と言う自覚は必要じゃぞ」
「そんなこと言ったって、ぼくも、皆と同じように着たいよ」
「仕方なかろう。お主の身の丈に似合う服がなかったのじゃからな。それに、お主ぐらいの年の頃は、成長著しいからの。身の丈に合わせた服を準備するのも大変なのじゃぞ」
 微笑みながら、そう告げると、老魔術師は、ラスクの制服の袖を折り返した。
「ほれ。袖に隠れてしまうよりは、良いじゃろ?」
「……なんか嬉しくない」
 憮然としたラスクの反応に、不意に、老魔術師は一人の少年を思い出した。年の頃は、この少年と同じぐらい。よくよく見れば、その表情に、面影が在るような気もする。
――まさか、そのようなことが…… いや、しかし……
 逡巡の後、老魔術師は、ラスクに名前を尋ねた。
「……お主、名は何という?」
「ラスク、だけど?」
 その名に心当たりがあったのか、老魔術師は、喜びと悲しさが混じった表情で、ラスクを見返した。
「……そうか。まだ、早いかもしれんが……いずれ知る事じゃからな。ほれ、儂と来るが良い」
 とつぶやくと、老魔術師はラスクの手を引いて一つの碑の前に案内していた。


To be continued... -> 『幕間#4・老師の導き#2』

今日のあとがき(ダベリとも言う)

……もうだいぶ前の話よ?
『Break the Wall 1st Half #5』でちょろっと出した一節にまつわる部分だもの。これ。
覚えてる人居る?(苦笑)
けど、何故に、ロマノフ先生なんでしょうな?
だって、アメリア先生じゃ若いじゃん。かといってフランシスが、その歳だったら……ちょっと老けてるよねぇ。外見的な年齢で、一番無理が無さそうなのが、ロマノフ翁だった、ってだけ。リディア先生では……ちょっとキツそうだしねぇ。ガルーダ先生は……いろいろと正体の明かされてないところがあるから、下手に利用できない、ってのがあって避けた。

さてさて、明日は、晴れ姿を見せることができる、と浮かれていたラスクに、伏せられていた事実が、立ちはだかります。それは、ユリやタイガと出逢うまでの無彩色の時間の始まり。
「定められた未来」と言うものがあるのなら、それはぶち壊すためにある、なんて言い方もありますが、「過去」に関しては「事実は変わらない」との厳然たる表現があります。
明日は、そんな感じに進みます。