第一稿と発表稿#1

まぁ、端々で「ネームが切れねぇ」とか、「第一稿が書けねぇ!」とか書いてたから、公開するに値する原稿とするまでにはいろいろあったことは、判っていると思うけど、この中でも、第一稿と発表稿とがまったく違う方向に流れてしまったモノなどを上げてみようかと。
ったく、連中の自己主張の強さには、呆れるぜ。

Part1『ラスク・Pre-Expert』#5

没原#1
 フェスティバルの開催も間近に控えている時期ではあるが、タイガにしてみれば、ラスクが、無事に昇格できるのかどうかの方が気になり始めていた。
「あー! もうっ!」
 落ち込んで教室に帰ってきたかと思えば、突然声を荒げて、自分の机に八つ当たり。珍しく荒れている様子のラスクの首根っこ掴みながら、タイガが外に連れ出そうとする。
「ちょっと、表で話そか」
「また、なんかヒドいことする気じゃないでしょうね?」
 タイガの誘い方に、穏やかでは無いものを感じたからなのか、釘を刺すようなユリの言葉に、抗議の声が飛んだ。
「あほか! このままほっとく方があぶないわ」
 身に覚えがあるからなのか、いやに説得力を持ったタイガの言葉に、ユリは返す言葉をなくしていた。

えーっと、件の#5でラスクが、トーナメントから帰ってきて、教室で自分の机に当たり散らすシーン。公開稿では、ラスクの「あー!もうっ!」ってのを削ったけど……入れといた方がよかったかな?(ぉぃぉぃ
とは言え、この部分での大まかな流れにはそれほど変更はないね。

没原#2
 とげとげしさ、というか、毒気のような物が抜けたラスクの様子に満足したのか、タイガも、敢えて視線を逸らして言葉を続けた。静かな威圧感、と言う物を感じたラスクは、思わず言い淀んでいた。何が出てくるのか推測できなかったからだ。
「もうちょっと、気を緩めることできへんか?」
「そんなこと言ったってさ…… アメリア先生が、あんなこと言っちゃうから、嫌でも意識しちゃって……」
「んなら、話を変えよか。お前さんに思うところがあって、昇格した日の晩は開けておきたい、って言うのは判るが、ユリが心配するほど、昇格に集中するってのは、どうや?」
「そんなつもりはないんだけど……」
 そう答えたラスクの態度に不自然さを感じなかったのだろう。
「お前さん、なんか隠しとること有りそうやな」
「な、ないよ? 何言ってるのさ、突然」
 思い当たることがあったからなのか、ラスクの表情が驚きに染まる。話すべきか話さざるべきか、動揺している様子の彼をじっと観察していたタイガが、肩をすくめながら言葉をかけた。
「また、別の時に聞かせてもらうわ。いずれ話せるようになるやろ。そんときに改めて聞かせてもらうわ」
「ごめんなさい……」
「二股かけてる、ってわけでもないんやろ?」
「ふたまた?」
 演技一切無しの「意味が判らない」とのラスクの反応に、タイガも安堵の表情を覗かせた。
「いや、今のは聞き流しといてくれ。しかしなぁ……お前らのことをとやかく言うつもりはないけど、隠すつもりやったなら、もう少し上手く立ち振る舞えるようにならんとな」
「隠してた、よ?」
「あほかぃ! ルキアにカマかけられて、自白したんはお前さんやろ」
 この期に及んでも、まだ隠さなければならないと思っているラスクの髪を、わしゃわしゃと乱暴になで回しながらタイガが現実を突きつける。
「でなきゃ、あの子犬娘(ルキア)がユリを誘うか」
「今日みたいな流れになってたら、知らなくても、首突っ込んでたと思うよ」
「……ほんま、犬みたいなやっちゃな」
「そうだね」
 タイガのルキア評に、ラスクは苦笑いを浮かべて頷くしかなかった。

こっちは、タイガに連れ出されて、廊下でのやりとりのシーンから。こっちでは、さらっとした流れになってるねぇ。たださ、この流れだと、微妙に気持ちの悪い流れになるような気がして、文章を編み直した結果が、公開稿になったというオチ。

Part3『Break the Wall』関係

#2
ユリ:
 タイガ、
タイガ:
 なんや?
ユリ:
 ちょっと……良いかな?
タイガ:
 俺、子守有んのやけどなぁ。

タイガが子守と言ったことで、言いたいことの半分は伝わったと思ったのか、

ユリ:
 その、ラスクのことなんだけど

タイガ、ユリの様子から、自分が動くべきだと理解。

タイガ:
 おっさん。悪いけど、俺のかわり、頼めんかな?
サンダース:
 珍しいな? ラスク殿のことは、自分が面倒みると言っていたのに。
タイガ:
 しゃーないやないけ。手のかかる弟に、滅多に頼ってこうへん妹まで頼ってきたんやから。
サンダース:
 投げっぱなしというわりには、アフターケアも忘れないのだな。
タイガ:
 おっさん、それ余計。

#2の後半かな。ちょっとクドいかな? 公開稿の方が。
ここの大筋は、それほど変わってないね。

#3
ユリ:
 突然、大人にならなきゃならなくなる、ってどんな感じなの、かな?
タイガ:
 どうしたんや、いきなり?

教室やトーナメントの最中では、まず見せない沈んだ様子に、予想外の問いかけ。何があったのか、さっぱり判らないタイガには、ユリの言葉にどう答えるのが良いのか、全く想像できない。

タイガ:
 それと、ラスクに何の関係があるんや?
ユリ:
 私たちにまとわりついてたときのラスクって、ちょっと暗い感じだったじゃない?
タイガ:
 そうやな。悪い虫付けとうなくて、追っ払っとった、って言うのに、あいつだけはお構いなしでまとわりついとったし、そのくせ、やたらとよそよそしかったりな。
 けど、笑えるようになり、お前に告白できるようになり、相談できるようになり、って言うのは、ええ傾向とちゃうか?
ユリ:
 その事だけど、まだ、どっかで無理してるんじゃないかな、って。
タイガ:
 まぁ、無理はしとるやろな。
ユリ:
 え?
タイガ:
 お前と同じ階級になる、って息巻いとるところが、無理しとる、って言うんや。今度のフェスティバルが始まるまでか、終わった直後を目安にしとるのか……
ユリ:
 そういう意味じゃなくてさ。
タイガ:
 なんか知ってんのか?
ユリ:
 うん……昨夜、シャロンから……
タイガ:
 ルキアが息巻いとったヤツな。アレ、結局、全員参加になったんか?

タイガの質問に、ユリ、頷いて答えるだけ。

タイガ:
 何を聴いたんかは知らんけど、ラスクは、そんなお前、見たいとは思ってないと思うぞ。
ユリ:
 でも、さ……
タイガ:
 そう言うことは、本人に聞きいや。俺の領分やない。
ユリ:
 でも!
タイガ:
 俺は、ラスクと同じ境遇やない。俺は俺。ラスクはラスクや。冷たい言い方かも知れへんけどな。
 それに、お前がラスクのことで悩むようなことを知ってしもうたんやったら、それを相談する相手は、俺やのうて、ラスクや。
ユリ:
 それができてたら、苦労しないわよ。
タイガ:
 おまえな、ラスクでも、ちゃんと自分で乗り越えてきたんやぞ?
 年上のお前ができんで、どうするんや?
 違うか?

タイガの言葉が理に叶っているだけに、ユリとしては返す言葉が見つからない。追い込まれた格好になって、黙り込むユリに、タイガが畳みかけるように言い放つ。

タイガ:
 お前が呼び出しづらいんやったら、俺が間に入ったる。
ユリ:
 バカタイガ! 薄情者!
タイガ:
 そこで待っとれ。ラスク呼んでくるから。

ユリの言葉を背に受けながら、タイガが教室に姿を消した。

ユリ:
 ラスクに直接聞けないから、あんたに聴いてるんじゃないの……

……タイガ兄ちゃんの台詞がえらい勢いで違うんですけど(笑)。優しいんだか、投げ棄ててんだか、よく判んない台詞回しとかね。

#4〜5
タイガ:
 ラスク、ちょっとええか?
ラスク:
 なに? タイガさん。
タイガ:
 ユリが、お前さんのことで聴きたいことがあるってさ。
 大方、『昨夜』のことやろ。

タイガの言った『昨夜』と言う言葉にラスクの表情、微かに曇る。

ラスク:
 そう……だよね。
タイガ:
 俺は、お前が話せるようになるまでは聞かん。けど、ユリは、知ってしもうとる以上、そうは行かんやろ。

意を決したように立ち上がったラスクの肩をタイガが叩く。

タイガ:
 頑張れよ、天才少年。
ラスク:
 励ましてるつもり?
タイガ:
 そのつもりや。

人なつっこい笑顔を浮かべながらタイガは、ラスクの背中を押して、見送った。

サンダース:
 良かったのか?
タイガ:
 そうでなくても、あの碑に足を運んどる事をレオンに知られとる以上、避けて通れへんやろ?
サンダース:
 吾輩としては、どうでも良いことだがな。

どちらかというと、予想外の言葉にタイガの表情が驚きに変わる。

サンダース:
 本人が話せるようにならなければ、意味がないだろう?

サンダースの真意を理解したのか、タイガも納得したような表情を浮かべる。

タイガ:
 ま、俺らに話せるようになるかどうかは、ラスク次第や。
サンダース:
 そうだな。本人が乗り越えなければならない、事、だろうからな。
タイガ:
 そういうこっちゃ。

と、サンダースの言葉に応えたタイガ。ラスクが消えた扉に向かって歩み寄る。

サンダース:
 ? どうした? 二人の問題と割り切ったんじゃないのか?
タイガ:
 なんつうかな、ユリを制止できるの、俺ぐらいやろうな、っておもうてな。
サンダース:
 兄貴分と言うもの、大変なものだな。
タイガ:
 んなこと言わんでええっちゅうねん。
ラスク:
 シャロン姉から、聴いたんだ。

ユリ、ラスクの言葉に頷くだけ。

ラスク:
 始めて聴いたときは、僕も、どうして良いのか判んなかったんだ……
ユリ:
 ねぇ、
ラスク:
 なに?
ユリ:
 辛く、無いの?

沈んだ様子のユリの言葉に、ラスクは、言葉になっていない問いかけを読み取ってしまった。どうして、ユリが沈んでいるのか、そんなことぐらい、判っている。だから、できることなら、笑ってしまいたかった。もうすぐ、肩書きが同じになるんだから。
でも、「大丈夫。気にしないで」と、すんなり口にすることができない自分が居る。今、彼女の前で涙に暮れるのは――お互いの精神面に、良くない影響を及ぼすかも知れない。
だから、間ができてしまった。

ラスク:
 ……
 全部終わるまで、待ってくれる?

不自然な間があった。始めて聴く、いや、随分、聴いてなかった、震えの混じった弱々しい声。

ユリ:
 何時まで?
ラスク:
 昇格したら、昇格して、報告も全部終わったら……そっちに行っても、いい?

しゃくり始めているような気がした。

ユリ:
 判った。
ラスク:
 ご、ごめん、なさい

謝ると同時に、ラスクが駆け出す。

ユリ:
 ら、

追いかけようとしたユリの肩を、タイガの手が引き留める。

ユリ:
 タイガ
タイガ:
 今、追いかけるのは、やめといたり。
 まだ、見せたないだけなんやから。

姉の居る、購買部に向かって。後ろを振り向かずに、力の限り走った。泣き崩れていても、声だけは上げなかった。まだ、ユリには、泣いているところを見られたくなかったから。

タイガ:
 結構、大変なんやぞ。
 いくら、好きになった相手や言うても、泣き顔見せられるようになるのは。
 んな心配そうな顔すんな。ラスクの中には、お前しか居らへんわ。

……く……区切れねぇ。なんというか……この流れに、オチに繋がるような言葉を、良く差し挟めたな、と。まぁ、こういう流れの#4と5の第一稿でございました。

#6
クリス:
 まったく……

購買部に飛び込んで来るなり、堰を切ったかのように泣き崩れた自分の弟に、クリスは呆れ果てていた。

クリス:
 無理できないのなら、ユリさんのところで泣いてくればいいのに。
ラスク:
 だって、だって……

涙や鼻水でくしゃくしゃになった弟にハンカチを渡すに止めた。クリス自身にも、そろそろ姉離れをさせる時期ではないのか、という想いもあったからだ。

ラスク:
 お父さんたち、まだ帰ってくるような気がするんだもん。死んだなんて、もう逢えないなんておもえないんだもん。

「ふう……」と溜息を吐くと、諭すように弟に声をかけた。

クリス:
 私が言っているのは、そういう事じゃなくて……
 ユリさんを選んだのは、ラスク。あなた自身でしょ?
 それなのに、そういう部分を見せられなくてどうするの? これからもずっと、背伸びしっぱなし?

ひっく、ひっくと言ってはいるが、クリスの言葉が意外だったのか、きょとんとした様子で、ラスクが彼女のことを見返している。

クリス:
 いい? ラスク。あなたは、もうすぐ旦那様と同じ、上級号を受けることになるのよ?
 この上級号は、受けるためには、昇格認定を受けなきゃいけないって事ぐらい、判っているはずよね?

クリスが、遠回しに何を言おうとしているのか、まだ理解できては居ないようだが、彼女の言葉の直接的な意味は理解している様子はみせている。

クリス:
 本当は、次の報告の帰りに言おうと思っていたんだけど……
 その様子じゃ、今言った方が良いかもね。
ラスク:
 え?
クリス:
 私が、あなたの報告に付き合うのは、今回まで。次からは、もう、私は付き合わないから。いい?
ラスク:
 どうして?!
クリス:
 上級号ともなれば、一端の魔術士として扱われるようになるわ。この意味、判る?
ラスク:
 一人前、って事?
クリス:
 そういうこと。
ラスク:
 でも
クリス:
 『でも』じゃないの。それにね、私は、まだ生徒ではない身。そうそう、足を運んでもいられないし、学ばなきゃならない事もたくさんあるの。
 わかった?

渋々、ラスク頷く。

クリス:
 怖がらずにぶつかりなさい。ね。そんな程度のことで、ユリさんは、ラスクのことを嫌いになったりはしないから。

第一稿では、ここでクリスはラスクに、次からは自分独りで行くように、と告げとるのですな。大きく変わった、と言うか、変えたのはこの部分かなぁ。諭すような台詞回しが続くのは、変わってない部分なんだけど、第一稿より公開稿の方が、より説教っぽくなっている可能性はあり。

ざっと眺めてみたところでは、こんな感じかな。第一稿という形で残っているメモと、公開稿との間で比較ができるのは、この辺りまでっぽいんで。これにてってところで。