#63・『appendix postscript』

全169日間だもの。そりゃ、季節も巡るよね。
さて、と……
『越境』に対する、Appendix postscriptであり、且つ、『境界線』シリーズ全体に対するAppendix Postscriptでもあるのが、このかけらにござります。


去年の5/1から始めた『境界線』に端を発する4つの物語。表題作とも言える『境界線』、『境界越しの約束』、『最後の境界を目指して』、『越境』。それら全ての締めくくりとなる、4つの場面。
それが、この最後の欠片。
APPENDIX POSTSCRIPTと名付けた最後のパートにございます。

appendix postscript

<- 『report from LASK and YURI to sky...#5』

「あれ? トーナメントに行くんじゃないの?」
 ユリとラスクが教室を後にしたにも関らず、席を立とうとしないタイガに、ルキアは、疑問を投げかけていた。ルキアの疑問を何処かで予想していたのか、一目見遣ると、準備していたように落ち着いた態度で、
「今日も、お邪魔虫やからな、俺は」
 と切り返す。
「って、タイガさ、アメリア先生にナイトには上がれって言われてたんじゃなかったっけ?」
「すぐに上がれるんやから、気にすんなや。こう見えても、九つ星なんやぞ」
「九つ星って言っても、ナイトにも出られないホビットの、でしょ?」
 溜息をつくルキアに、苦笑いを浮かべながらタイガが言い返す。
「ユリと同じ事言うなや」


「よくも私の『弟』を、使いっ走りにしてくれましたわね?」
 昇格の度に、ラスクの報告を受けていたレオンに、シャロンの非難の声が飛ぶ。が、そんな言葉を向けられた本人としては、言われない非難にしか聞こえず、
「弟? シャロン、お前に弟なんて居たっけ?」
 と聞き返してしまっていた。
「ラスクのことですわ」
「って、お前は、パーシュート。ラスクは、エンライトン。名前が違ってるじゃないか?」
「お父様と、エンライトン夫妻に所縁があったので、弟のように育ってきたって意味ですわ」
 とのシャロンの反論を聞いて、レオンも「ふーん」と言う表情を浮かべる。
「それなら、今日までだよ」
「え?」「今日で終わりって言ったんだよ」
 驚いたような声を漏らしたシャロンに、レオンも畳みかけるように言葉を投げかける。
「けどよ、シャロン」
「なんですの?」
「お互い、親の名前が厄介だよな」
 複雑な表情を浮かべてつぶやいたレオンに、シャロンは、すぐに返す言葉を見つけられなかった。父親の階級が異なっているとは言え、互いに、父親の名前をそのままでは名乗れなくなる辛さを、理解してしまったからだ。
 アカデミー出身者を縁故に持つ者が比較的多かったこのクラスの中でも、その名を用いることを最も早く解禁されたのが、上級号を授かったところでアカデミーを辞した父親を持つシャロン。それに続いたのが、昨日、両親と同じ階級に到達した、ラスク。同様に、姉であるサツキが賢者号を授かっていたユウも、姉と同じく賢者号を授かれば、「shi」との俗称から、「シルベノミヤ」を名乗ることが許される。が、レオンは、大賢者二世との出自が影響し、父が名乗った「ハート」を名乗るためには、大賢者に到達しなくてはならない。
 その道のりの遠さは、ようやく片手に余るようになった人数しか授かっていないことからも、はっきりしている。
「……そうですわね」
 ようやく口にした言葉は、ありきたりな言葉だった。が、レオンには、それだけで充分だったのか、
「わりぃ。こんなこと言っちまってさ」
「まったくですわ。私は、貴方の父親自慢を聞きに来た訳じゃありませんから」


「宜しいかな?」
 控え室を訪れた紫紺の老師に、アメリアの表情に緊張が走る。
「そう固くなるでない」
「はい。ところで、先生?」
「ん?」
「今日は、どのようなご用件で」
「エンライトンの忘れ形見は、どうしとるかね?」
「ラスク君なら、昨日、無事に、先輩たちの名前を名乗れるようになりました」
 アメリアの返答を聞いて、満足そうに、手入れされた白いあごひげを撫で梳いている。と、不意に、遠い目でアメリアがポツリともらす。
「けど、不思議な因縁ですね」
「まったくじゃ。アメリア君に授けた、その『ポラリス』。元々は、ルーシアに授けた物じゃったからな」
「お下がりよこすなんて、酷い先生だ、って、知ったときは思いましたけどね」
 と一旦言葉を切ったアメリアが、続けようとした言葉を悟ったのか、老師もそれを否定するように受けていた。
「いやいや、アメリア君の言うように、儂は、酷い教導師かもしれん。なんせ、エンライトンの二人に次いで、シルベノミヤすら……儂より先に、逝きよった」
「そう、なんですよね……」
 アメリアが沈みがちに、老師の言葉に応える。生徒たちが本格的に動き始める前の、活気に満ちた静けさが、二人の間に降り立ってくる。
「さて、儂も、そろそろ戻るとするかの。このまま居ると、忘れ形見のことでいろいろ聞いてしまいそうでの」
「先生の耳にも入ったと判れば、エンライトン先輩たちも安心しますよ、きっと」
「そうじゃな。それじゃ、これからも、指導の方、頼みますぞ」
「はい。ロマノフ先生」


「そう言えば、デートの前に、ラスクの部屋に戻らなきゃ、いけないんだよね」
「そうだね」
「面倒くさいから、アメリア先生にお願いして、二人部屋にして貰おっか?」
 とのユリの言葉に、相当な衝撃を受けたのか、ただでさえ赤くなっていた顔を、ますます赤くして、「な」とだけ、ラスクは、繰り返していた。
「判ってるよ」
 ラスクが何を言わんとしているのか理解していたのだろう。いや、予想していたのかも知れない。それぐらい自然な態度で、ユリは言葉を返していた。
 それで、多少は冷静になったのか、
「姉さんや、シャロン姉と、一緒の部屋にしてもらうのと違うんだよ!」
 と叩き返すのだが、
「私と同じ部屋なのは、いや?」
 と聞き返され、俯きながら、首を振る。
「だったら、それで良いじゃない」
――もう少し、いろいろ気を使って欲しい……
 と、ラスクは、ユリの返答に対して、口を尖らせていた。
「けど、ユリ」 「なに?」 「……なにかあったら、どうするの?」 「ラスクと、だったら、構わないよ」
Thank you for all readers...

ダベリ

って訳で、最後の話は、ラスクたちに関った面々の中でも、3組6人を抜き出して、その直後の風景などをね。
余韻をぶち壊すようなことを、俺自身が言うのもなんだと思うけど、この3組の話題の中で、とってつけたのは、アメリア先生とロマノフ先生の関係*1と、アメリア先生とラスクの母親・ルーシア=エンライトンとの縁。ロマノフ先生とラスクの父親・マイケル=エンライトンとの縁は、一番最初の『境界線』で撫でてあったから、「そう来るよな」と思う人もいると思うんだけど……
アメリア先生との縁に関しては、あざとかったかな……(コラ

さて、と。
一番最初に公開した物語、『ホワイトデー夜想曲』から足かけ……10ヶ月半。
アーカイブとして公開するのではなく、欠片を小出しにするこの形で、昇格話を書き続けて、もう9ヶ月近くが経ちました。昨日書いたことの繰り返しになるので、多くは語りませんが、今日のこのかけらまで、お付き合いいただいた方々に、感謝します。そして、その皆様方に、この不肖冬崎が提示した二人の組み合わせが、「こういうのもアリだよね」と感じていただけたのならば、幸いにございます。
では、1年以上前に終了したQMA2のプレイの締めくくり同様、本を閉じるイメージと共に、一連の物語を締めくくりたいと思います。

付き合ってくださった方々、本当におつかれさまでした。
そして、ありがとうございました。

この言葉で締めようと思っていたのに、すっかり入れるのを忘れてた。

明日は晴れるよ、きっと!

*1:ロマノフ先生から見れば、ラスクは、孫弟子に当たる存在