#−−・『appendix postscript.more two magis.』

ここを考えるの、マンドクセ……(ぉぃ

appendix postscript.more two magis.

 踏みしめる、カサリという音が、辺りの空気と、優しい日差しの中に溶けていく。
 ここに来たことを証す音を溶かし込んだ日差しは、彼と、その碑を包み込んでいた。


 本心を笑顔の仮面に隠して、彼は、碑を見つめていた。
 正確には、碑に刻まれた二つの名前を、見つめていた、と言うべきだろうか。

「僕は、全てを語るべきなのでしょうか?」
 答える者が居ないことぐらい、彼だって承知している。が、精神の平衡を保つためには、そうする他無いように、彼は思っていたのだ。
 日差しは、変わることなく、彼と碑を、包み込んでいる。冷たさを潜ませた風が、彼の髪を踊らせる。


 一人きりの時間の終わりを告げたのは、予想外の人物の問いかけの言葉だった。


「ここにいたのか」
 セリオスは、碑を前に立ちつくすように佇むカイルに声をかける。
「……どうしたんですか?」
「いや、ラスクたちが来たのに姿が見えなかったんで、気になって探していたんだ」
「因果応報なんでしょうか……」
 ともらしたカイルの言葉が、セリオスには理解できなかった。
「何が、因果応報なんだ?」
「……この碑に刻まれている二人の賢者を、僕は知っています。でも、彼は、僕がどういう人物なのか、知らないんです」
 顔色一つ変えずに、セリオスは、カイルの言葉を聞いている。そして、その言葉を聞いたときと同じように、顔色一つ変えずに、こう答えた。
「そういう仮定は不毛だと思う」
 カイルは、そんなセリオスの返答に、思いを伝えるのには言葉足らずだったのだろうか? と後悔しそうになる。が、続いたセリオスの言葉に、ここにいるのが、自分に次いで賢者号を授かった少年だったことを思い知らされることになった。
「ラスクは、まだその事を知らないし、また、知ろうともしていない。」
「……どうして、ラスク君だと思ったんですか?」
「単に、候補から外していっただけだ」
 とカイルに答えると、セリオスは、四本、指を立てた。
「僕たちのクラスで、名を受け継ぐ立場にあるのは、シャロン、レオン、ユウ、そして、ラスクの四人。シャロンは、もう名を継いだ、と言うことは、彼女に名前を受け継がせる人物は、この碑に名前が刻まれることはない。」
 そう言って、指を一本折る。
「レオンの場合は、ラスクとのやりとりから考えれば、名前は、まだ刻まれていない、つまり、存命である、と言うことだ」
 また一本おり、残る指の数は二本。
「ユウは……先生の言葉と、彼の異称『shi』から推測すれば、この、一番新しい『サツキ=シルベノミヤ』だろう。だが、この『シルベノミヤ』という名前は、『サツキ』しかいないし、ユウだったら、悩んだりしてないはずだ」
 風が渡っていく。カイルは、セリオスの推測に、口を挟まずに、ただじっと聞いている。
「残っているのは、一人だけだ」
 そうつぶやいて、一本だけ指を立てて、突きつけるように、カイルに示す。
「だからといって」「だとすれば、ラスクがここに来る理由は?」
 この場を誤魔化すことで切り抜けようとしたカイルの言葉を遮って、とどめの問いかけを叩き付ける。
「切り出せないのなら、そのままにすればいい。が、不毛な仮定で、あれこれ悩むぐらいなら、昨日、二人の賢者が誕生したことを祝う方が、前向きだと、僕は考える」
「そうでしょうか……」
「カイルにとっては、不毛ではないのかも知れないが、ぼくから見れば、充分不毛だ」
 割り切れていない様子のカイルに、セリオスの無遠慮な言葉が飛ぶ。 
「そうでなくても、賢者としては先輩格のカイルが、そんな調子じゃ、ラスクが戸惑う。普段通りの顔で、出迎えてやるのが一番良い筈だ」
「彼には、ユリさんが居ますよ」
 自分の出番はない、と言いたげなカイルの返答を、まっぷたつにするような言葉をセリオスが言い放つ。
「彼女では、経験が浅すぎる」
 驚いたような表情を見せるカイルに、セリオスは言葉を続ける。
「彼女も、ラスクと同じ日に賢者になったんだ。その事を考えれば、僕たちが、相応に振る舞うのが、ラスクやユリのためになるはずだ」
「……僕は、赦されるのでしょうか?」
「誰に?」
 カイルが口ごもる。風が、二人の間を渡っていく。カイルが、ようやく重くなった口を開く。
「君の推測通りですよ」
「だったら、決めるのは、僕じゃない。だから、軽はずみなことは言えない。でも、」
「でも?」
「タイガの言葉じゃないが……カイルが話せるようになってからでも良いんじゃないだろうか?」
「そういうものなのでしょうか?」
「繰り返しになるが、ラスクは、それを知ろうとは思っていない。それが、全てじゃないか」
ダベリ

さてさて、『越境』において一番最後のシーンにして、言い訳に繋ぐ最初のシーン。
カイセリって組み合わせでね。しかし、本当に、ここは、王道な組み合わせを使わないところだね(笑)。
ま、ラスクがメインって時点で、王道から外れてるんですけど?

碑の前に佇むカイルの視線の先には、二人の賢者の名前。ラスクが、その名前を名乗ることを許された影響で、どうしても、避けることができなくなった『対峙』。と、そんなところでね。
『一つしかないのは、事実で、真実は、人の数だけ存在する』。
これが、次の『回顧』での背骨になるんで、覚えておいて欲しいな、と。
えげつない、とか、酷いとか、言うなよー? とか何とかね。